ギャラリーアンフェールでは現在、トナカイさんによる写真と詩の展示『五月の虹』を開催中です。

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最初に拝見したトナカイさんの写真集「五月の虹」がとてもあたたかくて優しかったので、展示紹介のためのコメントが届いた時、序文でとても違和感を覚えてしまいました。「生きることは地獄です」そう言い切るトナカイさんの言葉に驚いてしまったのですが、最後まで読んで、これはなんて優しい言葉なんだろうと、違う驚きに変わりました。

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この地、この時に生まれて、生きていくことは何かと大変だけれど、ただ生きて道端に咲く小さな草花が見せてくれる美しさと同じように、「大丈夫、あなたは美しい」と語りかけてくれる写真と言葉。

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生きるための営み、まっすぐに捧げる祈り、通りすがりの光景、愛する人…

 

はじめてお会いしたトナカイさんは、想像していたより大きくて、少しゆっくりとした時間を纏った穏やかで柔らかい雰囲気の方でした。生きることへの絶望感、地獄の中で、ほんのささやかな美しさを見つける目を持つ人。

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何も言わずただ私達の目の前に現れて、何も言わず消えてしまう七色の奇跡のように、金色に包まれる日だまりのように、そっと頬をなでてくれる風のように、ふとした瞬間ふいに心に届くささやかなやさしさ、美しさを、写真という形にして教えてくれる。生きてたらいいこともあるもんだと、とても素直にそんなふうに思えました。

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連日、とてもたくさんの方にご来場いただいています。誰かと一緒ににこやかに過ごす人もいれば、一つ一つの作品とじっくり向き合う人、さらりとみていく人、涙を流す人…ギャラリーの中をいろんな気持ちが行き交ってなんだかとてもドラマチックで、私はその様子になんだかじんわりと胸があたたかくなりました。トナカイさんの展示の意味を、何より訪れる人たちの顔が教えてくれるよう。

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一人でもたくさんの人に、通り過ぎてもらいたい場所になりました。ご来場をこころよりお待ちしております。

トナカイ 写真と詩の展示『五月の虹』
開催期間:2019年10月8日(火)-10月14日(月祝)
開催時間:10:00-21:00(最終日は16:00まで)
開催場所:ギャラリーアンフェール

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生きることは地獄です。それはもうずっと、僕の変わらない感覚です。どうしてこんなにも、ただそこにいることが許されないような感覚を、僕たちは持ち続けなくてはならないのでしょうか。努力とは生命の必要最低条件なんでしょうか。そんなはずはない。草花がただそれだけで美しいように、僕たちは生きているだけで美しいということを、繰り返し伝えなければいけないと、僕は思っています。僕が写真を撮る理由はそこに集結していて、撮るということが「あなたは美しい」という事実になって永遠に記録されればいいと願っているから、ただそれだけです。展示をする理由は、僕のその願いをかたちにして、見せたいと思うからです。必要のない人には、まったく必要のない展示です。しかし、必要なひとには伝わってほしい。あなたは大丈夫なんだと、魂に届く写真で、言葉で、伝えたい。

作者:トナカイ なぜトナカイという名まえなのか、よく尋ねられるのでお答えします。むかしむかしmixiというサービスを使うにあたり、何か動物の名まえをつかおうと思いたち、皆がよく名乗るくまや猫のような動物ではなく、それなりに珍しく、しかし誰もが知っていて、悪い印象を持っていない、そんな動物を考えていて、ふと、トナカイが浮かび、それをスクリーンネームにしたのがきっかけです。僕は、実在する、現実を生きる会社員です。東京を歩いています。写真を撮り、詩を書いています。(twitter:tonakai)

 

(上田)