第三十回 マヤルカ古書店さん

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今回のお店探訪は、2017年秋に西陣からここ一乗寺へと移転し、当店のご近所さんとなったマヤルカ古書店さんです。置かれている古書や雑貨のほどよくミックスされた面白さなども魅力ですが、やはり店主のなかむらさんの人柄に惹かれて、多くの本好きたちが訪れるすでに名物店となっています。開業からこれまでの、あれこれをお伺いしました。
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−いつ頃からお店を始められたのですか?
「マヤルカ古書店」としては2013年からです。最初は西陣にオープンして一昨年の2017年に一乗寺に移転してきました。その前は「町家古本はんのき」*で2年半ほど活動して、さらにその前はネット古書店もやってましたし、なんだかんだで古本屋としてはほそぼそと10年くらいでしょうか。

−古書に携わって、という意味では結構経っていますね。古本屋をやる前は、どんなことをされていたのですか?
東京で編集の仕事に就いた後は、京都に移り図書館司書やフリーのライターも経験しました。マザーズハローワークの相談員もやっていました。事情もありどれもそんなに長続きはしなかったのですが、古本屋は今までで一番続いている仕事といってもいいですね。

−性に合っていた?
そうですね、そうだと思います。古本屋でなければ特にお店もしたいとは思っていなかったですし…。

−古本屋一本で行こう、というのもなかなかの英断だと思います。そもそも、古本屋を生業にしていこうと思ったのはなぜなのでしょう?
やっぱり元々本が好きでしたし、素人半分でネットでやり、その後はんのきで週2くらいで店番して…という風に徐々に実際に古書を販売する「古本屋」という商売に惹かれていったんですね。それに、どこかで雇用されたり、誰かからの依頼を待つ、という仕事の形が自分にはあまり向いていないと思いまして。古本を売る商売が一番生計が立てやすいんじゃないかと思ったし、実際そうだった。

−お店を何かやりたかったのではなく、古本屋だから、なんですね。
しかし本好きでも古本というのはまた別だと思うのですが、そもそもの古書との出会いはいつ頃だったんでしょうか。

大学で歴史地理学を学んだんですが、その時の担当教授に、神保町に行けば君に役立つ本が色々あるよ、と教えてもらって。そのとき初めて神保町に行ったんです。そこで古本の魅力に目覚めましたね。

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−教授のすすめで…すごく素敵な入り方ですね。学問のための資料を探しに行ったのに、気づいたら神保町にはまった。神保町なんて滅多にいけない身としては羨ましい!
いやでも茨城から電車を乗り継いで随分かけて。本当に当時は時間がかかったんですけど 笑。そのあとは東京に引っ越して会社員になってから、不忍ブックストリートの一箱古本市にも影響を受けました。自分の本を持ち寄って対面でお客さんに売って。こんなやり方もあるんだ、と。

−確かに一箱古本市で本を販売する楽しさに目覚める、という人は多いようですね。だからと言って、店まで出してしまうのはやはり並並ならぬ行動力だと思います。
自分の中では古本屋ならやれるかも?と思ったので。でもそれもさっき言ったように紆余曲折あったからなんですけど、最終的にここにたどり着いたといった感じですね。

−そしてその判断は間違ってなかったわけですね。
そう思っています。やめたいと思ったことはまだ一度もないですし、ストレスもゼロで…。

−ところで、女性がやっている古書店ということで注目もされると思います。 女性店主も増えていますし、あまり女性という言葉を強調するのは今はそぐわないかもしれないですが、やはり古書店という特殊な現場で営業していく中で、女性店主ならではの経験というのはありますか?
そうですね……たとえば紹介のされ方がいわゆる暮らし系というか、手仕事や料理の本が豊富、というように書かれることが多いですね。見てもらったらわかるように、ウチは普通の本の方が圧倒的に多いのですが。女性店主ならではのイメージなんでしょうね。

−ただ、なかむらさんの柔らかい雰囲気はいい意味で「女性店主の古書店」を体現しているように思えます。取材の方がそう紹介したくなるのもわかるような。女性店主の古書店といえば、たとえば倉敷の蟲文庫(むしぶんこ)さんなども代表格だと思いますが、振り返れば、それ以外になるしかなかった、というような道が一本続いていたという意味ではおんなじですね。
そうですね、ただ、私は「店主が主役」ではなく、「店が主役」でありたいと思っています。あまり店主が出しゃばらない。「場」が大事だな、と。移転してきて実感していることでもあるのですが。

−それは我々の店にも言えることだと思います。
あ、でも、女性店主といえば、京都・神戸・大阪の女性古本屋店主でよく集まったりもするんですよ。古本屋自体あまり競合しないので、同業者の仲がいいんです。

−それは楽しそうですね〜。ところで現在仕入れはどのようにされているのですか?古書組合には加入されていないのですよね?
基本は買取のみで成り立っています。でも一乗寺に移ってきてから買取の量も質も上がりました。左京区の読書人口でしょうかね。移転によって書棚の面積も広くなりましたし、ありがたいことです。

−買取のみでこのクオリティを保てているのは本当にすごいです。
家まるごとの出張買取も多いです。一度では終わらず、何度も通うケースも。仕事の中で、やはり買取が一番楽しい。

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−お店全体のことも聞きたいのですが、こちらは一階がお店、二階がギャラリースペースとなっていて、その二階で展示やイベントも積極的にされていますね*。
これは大体持ち込まれたお話が多いんです。貸しギャラリーではない、ゆるーいつながりで作家さんと空間を作っています。ギャラリースペースのおかげで自分も楽しいし、好きなことを好きなようにできるようにしっかり古本で売上げを立てるイメージなんです。

−建物自体は元々は個人経営の印刷会社だったと聞きました。お店とギャラリーにちょうどよいサイズで、造りの細部もどこかレトロで一階の床に使われた昭和の赤い陶器のタイルなんて本当に可愛いですよね。今ではなかなか見られません。
そうなんです、私も気に入ってあれはあのまま残しました。ただ二階は完全に和室だったので、自分たちで床板を張ったりして本当に大変だったんですけど……。

−そういった手作りでの店づくりは古書店という風景にとても合っていますね。こけし博*なども定着していますし、そういった点もこのお店の独自の魅力を増やしていると思います。
ギャラリーは常に何かしらやっているので、フラっと楽しんでいただけたら。二階なので入りにくいかもしれないけれど、みなさん居心地がいいと言ってくれます。

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−最後に、店をやっててよかったな、ということは?
やはり売った本に反応があると嬉しいですね。本って買ってすぐに効果というか何かをもたらすものではないので、次に来て頂いたときに「あの本すごくよかった」というふうにいっていただけるととても嬉しい。

−では、これから古本屋でも新刊書店でも、本屋をやりたい人に何かありますか?
うーんそうですね…。ひとつ挙げるなら、自分自身に思ってることですが、最初からちょっと背伸びしても大きい商売をした方がいいかなとは思う。小さく始めたのでちょっとそのヘン悔いが残るというか。もっとやれたのにな、という。時代に逆行している意見かもしれませんが…。

−お店の規模というのは難しいですね。ある程度経たないと見えてこない点かもしれないですし。でも、マヤルカさんの商いは端から見ていてしっくりくる、というか気持ちのよいものに思えます。これからもご近所さんとして、本を扱うもの同士として、よろしくお願いします。ありがとうございました。

<座右の書を教えてください>
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『白い糸で縫われた少女』(クレール・ガロワ / 朝吹由紀子 訳)
こういう本を扱いたくて古本屋をしているんだ!と思える、しずかで残酷でかわいい本。

*町家古本はんのき) 京都市上京区で町家を利用して三人の古書店主が共同で運営しているユニークな古書店。 https://hannoki.jp
*2階のギャラリースペース) 大きな窓のあるギャラリースペースでは、写真やイラストレーションの展示、郷土玩具や海外雑貨の販売など、楽しい企画を開催。ギャラリー隣に設けられた新刊コーナーは、2019年秋にリニューアル予定とのこと。
*コトコトこけし博) マヤルカ古書店と夜長堂主催による、こけしの魅力を伝え受け継ぐための、2011年から続くイベント。

基本、ほほえみ顔ですよね。という我々に、「いやいやこれでも険しい顔も多いですよ」とこれまたにっこり答えてくださるなかむらさん。柔らかな雰囲気からは伺いしれない書物への愛と知識がこの店を形作っています。かつての古書店のオヤジさん的なイメージからはかけ離れたたたずまいの店主とお店ですが、そこに行けば必ず欲しい本との出会いがあります。決して気負って選んでいるのではない、けれども、一冊の本がここにあるのは偶然ではなく必然と思えるような。そんな、肩の力のほどよく抜けた、境界のゆるやかな本が待つ豊かな世界。当店から徒歩3分、楽しき書物めぐりのはしごに是非お出かけください。

取材:能邨 写真:田川
取材日:2019年5月13日

マヤルカ古書店
〒606-8187 京都市左京区一乗寺大原田町23-12
HP: http://mayaruka.com/