第三十八回 yuri yamadaさん(ピアニスト・作曲家)

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当店と関わりのある作家さん、アーティスト、取引先の皆さんへのインタビューを敢行するコーナー「いちじょうじ 人間山脈」。三年近くぶりの更新です!
今回は、当店のCDコーナーの秋冬の定番アルバム『Autumn to Winter』でもおなじみのピアニスト・作曲家 yuri yamada さん。昨年12月には当店COTTAGEにてコンサートを開催してくださいました。11月下旬、コンサートの最終打ち合わせにご来店の際に、作曲や作品制作、コンサートについてなど、じっくりお話を伺いました。

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―ピアノや曲作りはどういうきっかけで始められたんですか?

4、5歳くらいからピアノを習い始めてるんですけど。姉がピアノを習っていて、そのレッスンについて行っていたらしいから、自然とピアノ教室に流れていったみたいな感じで。気づいたらずっと続けていましたね。

最初に曲作りをしたのは、音楽教室で作曲をして舞台で演奏するコンサートみたいなのがあって。本当に小さい子から参加するジュニアコンペみたいな。ちゃんと楽譜に書いて作ったのはそれが初めてで、小学校1〜2年生ぐらいだと思います。

―ということは、初めから楽譜に書いて作曲していたんですか?

書いていましたね。音楽教室で教えてもらったんだと思うんですけど。CMとかドラマの曲とか、学校で習ったのとか、耳コピして自由に弾くっていうのもよくやっていて。たとえば今でも憶えているのは、大河ドラマ『秀吉』*1の曲をすごく格好いいなと思って耳コピして弾いてたり。その時から劇伴というか映像の曲って好きだったんだと思いますね。

―ご自身のブログのプロフィールで、映画の『東京日和』(’97)*2を挙げておられますよね。

日本アカデミー賞をたまたま観たときに『東京日和』が賞を取ったんですよ。ああいうのって作品紹介として短いVTRが流れるじゃないですか、それがすごく印象に残って。大貫妙子さんの曲と映像が流れたときに、何分かの映像にすごく感動して心を掴まれたのを今でも憶えていて、何かこう引っかかったんですね。映画っていうものにそれから惹かれていって。アニメ映画とか、海外のアトラクション系のハリウッド映画の大作とか、壮大なオーケストレーションのドラマとかも、わりかしごちゃごちゃしているイメージだったのが、その時見た『東京日和』の映像は、ピアノだけのすごく静かな流れで、淡々と過ぎて行って、登場人物も少なくって。初めてそういう音楽と映像に興味をもって、漠然とこういうものを作る人になりたいとどこかで思ったんです。

―十代の頃は何か制作をされていたんですか?

中学3年から高校3年にかけて、たまたま私がピアノを弾けるっていうのを知っている同級生がいて、その子は詩を書くのがすごく好きで、「これを歌にしたいから曲を付けて欲しい」って言われて。詩のインスピレーションから歌を作っていたらどんどん楽しくなって、こっそり授業中に五線を色んな紙に書いたり(笑)。それが私にとってまた転機だったというか。歌詞とか、何かがあってそこから想像して曲を作ることがすごく楽しいと気づいたんですね。そこからまた映像に音を付けたいと思い出したというか、それと似てるなと。

―その後、大学は音大に進まれたんですか?

音大は行かなかったんです、さんざん悩んで。大学は音楽だけに絞られたくないって思いがあって、美術にも興味があって、絵を描ける人に憧れがあって。だから芸術文化専攻ってところに入ったんです。美術の授業も自由に取れるし、デザインの授業を取ったり、それもすごく良かったなと思っていて。あらためて、そこで「これは違う、これも違う」って自分の中でどんどん消去していくことができたんですよ。絵本を作ったり、そうやって興味のあることを全部やって、音楽と美術って違うんだなと実感したり。

あと、大学で楽しみにしていたのが映画制作サークルに入って曲を作ることで。でも自分の大学のサークルがすごく小さくて、隣の大学の映画制作サークルの上映会を観に行ったら、最後に流れた映像が素晴らしくて。静かな、淡々とした色彩的な感じ、光の使い方も好きで。そんな思いをアンケート用紙に書いて、(サークルに)入れてくださいって(笑)。それで入ることになりました。それから、ちょっとずつ色んな人が(自主制作映画の音楽に)使ってくれて、最後に自分でも自主制作的に(映画を)作って。大学時代に色々やってみて、いちばんしっくりくるのが何かのために作曲することかもしれないと思ったんですよね。

大学卒業後は一度、音楽制作から離れて博物館施設で働いていて。そうしたら、たまたまその職場で出会ったのが、画家として個展を開いたり、イラストレーターをしていたり、音楽科出身でトリオでコンサートを自主的に開いていたり、そうやってかけもっている人が多くて。

―そういう環境で働きながら、音楽作品制作を本格的に始められたんですね。では、これまでに制作されたアルバムについて教えていただけますか?

コンセプト、こういうアルバムを作ろうっていうところから始まって考えて作ることが多いです。コンサートのフライヤーにもワンフレーズ、ちょっとした文章を入れることを意識していて。テーマ性というか。

―依頼を受けて制作するのが楽しいと仰っていましたが、まっさらなところから作るときも、自分で設定やコンセプトを決めて自分自身に依頼するように作るということですか?

そうかもしれないです。全くそれを意図せず作った曲もあるんですけど。『Autumn to Winter』に関しては、構想から言えば三年くらいかかっているかもしれないんですけど、秋から冬にかけて季節の移り変わりで何か作りたいというのがあって。ふいに出てくるものも、何かしらずーっと考えているんですよ、こういうアルバムを作ろうって。

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(※当店の秋冬の定番アルバム『Autumn to Winter』

 

―イメージしているものと実際に作り始めたときのギャップはあるんですか?

ギャップはないです。曲ごとに、自分の中ではストーリーはあって。たとえば「she is…」(アルバム『cantabile』収録)っていう曲があるんですけど、あれは原型は大学の時に感じたことを書いた文章からきていて。できればそれを映像化したいと思ったのを音楽にしたんですけど。

「She is…」で、打鍵がずっと途切れもなく続いていくのは脈拍みたいなもので。脈拍の心電図ってあるじゃないですか、脈って死なない限りずっと続いていて。あれみたいに誰にでも感情の線、心の線ってあるんじゃないかと思っていて。それを表しているので、途切れなく弾きたくって。心の線が交わる人もいれば、交わらずに一生を過ぎる人もいる。平行線のままの人もいるし、ずっとべったりじゃなくてもそれが寄り添って重なる人と出会えたら、それはすごく運命だよねっていうことを書いた詩というか、言葉で。それは自分のなかでしっくりしたというか納得したことで。

“She is”のあとに「…」ってしているのは、「she is walking.」だったり「she is running.」だったり、ing系になるように。彼女っていうことだけじゃなく、その歩いていく道筋だったり、(脈拍のように)止まらないという意味も込めて。それはどの「彼女」にも当てはまる。そういうものを表現したかった曲なんです。思い入れはそういう風に一曲一曲あったりします。

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(※「she is…」収録アルバム『Cantabile』   

―制作する上で影響やインスピレーションを受けた音楽家などはおられますか?

大学の時に、高木正勝さん*3の演奏を見てすごい衝撃を受けたんですね。初めてライブを観に行って、すごく新しいものを見た感じがして、影響を受けて、私が目指したい世界ってここかもしれないと思って考えさせられたし、圧倒されたんですよ。(高木さんは)映像も音楽もすべて、自分で制作されてるじゃないですか。そうか、と思って。

―ひとつまた目指すところが見えた感じですか?

そうですね。

でもやっぱり、ベースにはクラシックがものすごくあって。今でも新しい曲を考えたりするとき、全然出てこないとき、クラシックの曲を弾くと出てくるんですよ。昔弾いてた曲とか好きな曲。例えば、一番新しい「雨の光」っていう曲を6月に作って演奏したんですけど、あれはドビュッシー*4の「版画」っていうシリーズに「雨の庭」っていう曲があって、それを昔弾いていたのを思い出して、やっぱりすごい素敵で。なんてドビュッシー素敵なんだ!と思って。それを弾いた後にパッて思いついて、ワーッて弾いて。そうやって曲ができることが多かったりします。クラシックの和声とか、ドビュッシーらしい音の使い方だったりラヴェル*5らしい音の使い方だったりを聴くと、自分では行かないところに行くことを思い出させてくれるというか。この和音展開好きだったー、とか。自分の曲ばかり弾いていると絶対似通ってしまうし、それは自分でも気を付けていたりします。

―コンサートについて教えてください。これまでも、会場設計までを含めてコンサート作りを意識されているように感じます。

開催する季節と、どのアルバムをメインにコンサートをするかに合わせて会場は選んでいるところがあります。今回のコンサート(※2018/12/16 恵文社一乗寺店 COTTAGEでのコンサート)は、アルバム『Autumn to Winter』を中心に、あたたかい雰囲気のコンサートにしたいというイメージがあり、COTTAGEでカフェをされている昼の時間に訪れた時に、すごくイメージが湧いて「ここでやりたい!」という思いになりました。中庭があるのも大きくって。(2018年6月にコンサートを開催した)大阪のコンサート会場のカフェ GULIGULI さん*6も、ガラスがあって全面で森が見えて、6月だから雨が降る可能性が高いけど、雨が降っても窓に水が垂れるのが絶対きれいだと思って。そういうのも想像したりします。

―今回のCOTTAGEでのコンサートには、カフェ出店で高知の terzo tempo さん、空間装飾で作家の ka-ji- さんが来てくださいます。それぞれについて教えていただけますか。

terzo tempo さんは、わたしの姉夫婦が経営しているお店で。カフェというより喫茶店ですね。“terzo tempo”はイタリア語で「第三の時間」って意味で、『Autumn to Winter』に収録している「三の音楽」は terzo tempo さんをイメージして作ったものです。かき氷やプリンも美味しいですが、今回は焼き菓子、クッキーやグラノーラを会場で販売してくれます。

店主の二人はすごく音楽が好きで詳しくって。自分たちの気に入った音楽をカフェの一角で販売したりしていて。『Cantabile』で録音をお願いした田辺玄さんも二人の知り合いで。

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(※当日のカフェ営業では、様々な種類の無添加で体に美味しいクッキー、チーズケーキやタルト2種などを提供してくださいました。)

空間装飾を担当してくださる ka-ji- さんも二人の共通の知り合いで。旧グッゲンハイム邸*7で初めて『Autumn to Winter』 をテーマにコンサートを開催した時にもお願いしました。ピアノの下に赤い葉っぱを敷きつめてもらったり、ススキで作った輪っかと、ループを吊り下げたライトで装飾してくださったり。今回は、せっかくクリスマスの時期なのでモビールとかどうですかねと言っていて。

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(※実際の会場装飾の様子。このほか、ka-ji-さんは会場でモビールの販売なども)

―折角なので、お気に入りの本なども教えてもらえますか?

じつは全く小説を読まないんです。読めない。想像が膨らみすぎちゃって苦しくなる。映像で見るぐらいがちょうどいい、みたいなところがあって。でも絵本は好きで、エッセイも好きで。本の帯を読んだり、DVDの紹介文とか、そういうのは好きなんです。作品を紹介するカタログとか。

今日持ってきたんですけど本じゃないんです、それこそ。これ知ってますか?サリー・スコットさんのカタログ『ニクキュー』*8。

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いまは『ケダマ』になってるんですけど。サリー・スコットって、架空の女性の名前なんですよ。毎回シーズンごとにストーリーを持っていて、シーズンごとのカタログは、毎回違う写真家や小説家、アーティストの作品で構成されていて。すごく凝っているんですね。あとお洋服のデザインにも名前が付いていたりするんですね、テキスタイルに。(作品とテキストの関係で)そういうところに勝手に共感を覚えているというか。最近すごく好きだったのが、「想いが混ざり合い、ぬくもりと柔らかさで包み込まれる」というメッセージがテキスタイルの説明として記載されていて、すごく素敵だなと思いました。

―では最後に、今後の展開や目標などあればぜひ教えてください。

いつか映画のエンドロールに名前が載ることが夢なんです。音楽という形で何かに関われたら。何かの作品にひっそり関わっていたい。そしてこれからも自分の作品を大切に作っていきたいです。

 

目の前にある景色と記憶のなかにある景色や心象風景を重ね合わせるような情景的な音世界をピアノで表現する yuri yamada さん。これまでインタビューを受けられることはほぼなかったそうです。「言葉を使って伝えるのは苦手で…(だからこそピアノを弾いている)」とインタビュー中にも何度か仰っておられたのですが、ゆるやかな語り口で、記憶や制作のこだわりを自身に確かめるように、丁寧に一言ひとこと話される姿が印象的でした。
12月の雨の日に開催された昨年のイベントでは、昼の部はお子様連れが楽しめるような賑やかで穏やかな雰囲気で、うって変わって夜の部では、キャンドルを灯し、しんと静まり返った空間でのコンサートという趣向の異なる二つの時間を演出。喫茶や装飾を含めて、空間全体を作り上げ、お客様とともに楽しむコンサートは本当に素敵でした。
yuri yamada さんの音楽が気になった方はぜひ、当店の店頭やオンラインショップで販売中の作品を手に取ってみていただければ幸いです。

*1 1996年にNHKにて放送された豊臣秀吉を主人公に据えた大河ドラマ。原作:堺屋太一、脚本:竹山洋、主演:竹中直人。音楽は小六禮次郎(ころく・れいじろう)。

*2 荒木経惟・荒木陽子による私的小説『東京日和』を原作とした映画。脚本:岩松了、監督/主演:竹中直人。出演に中山美穂など。音楽、主題歌を担当した大貫妙子は、本作で第21回日本アカデミー賞「最優秀音楽賞」を受賞。

*3 京都府出身の音楽家/映像作家。ソロから多勢編成まで、ピアノを中心に据えた音楽制作や、「動く絵画」のような映像作品など多岐に手掛ける。また、細田守作品の映画音楽をはじめ、CM音楽、執筆などでも幅広く活動。最新作は、自然を招き入れたピアノ曲集『マージナリア』、6年間のエッセイをまとめた書籍『こといづ』。

*4 クロード・アシル・ドビュッシー(Claude Achille Debussy / 1862-1918)。フランス印象主義音楽の始まりとされる作曲家。代表的なピアノ独奏曲に「亜麻色の髪の乙女」「月の光」「子供の領分」「夢」など。20世紀で最も影響力のある作曲家の一人として、西洋音楽からジャズ、ミニマル・ミュージック、ポップスまで幅広い音楽に影響を与えている。

*5 ジョゼフ=モーリス・ラヴェル(Joseph-Maurice Ravel / 1875-1937)。フランスの作曲家。バレエ音楽「ボレロ」や「展覧会の絵」のオーケストレーションなどから”管弦楽の魔術師”と称される。ピアノ作品に「亡き王女のためのパヴァーヌ」「水の戯れ」「古風なメヌエット」など。

*6 屋久島をテーマとした庭を中心に、ギャラリーとショップを併設する大阪・池田市のカフェ。(https://www.guliguli.jp/

*7 神戸・塩屋でドイツ人貿易商グッゲンハイムの自邸として1912年に建てられたコロニアル・スタイルの異人館。2007年より多目的スペースとして活用され、コンサートや展覧会も定期的に開催されている。

*8 「ミナペルホネン」の皆川明が手掛ける2002年設立のファッション・ブランド「Sally Scott(https://www.sallyscott.com/)」のシーズン・カタログ。誌名を『ケダマ』に変更し現在も発行されている。恵文社一乗寺店でも毎号販売。アートディレクションは菊地敦己。
 

イラスト:岩瀬ゆか
撮影:涌上(恵文社)、yuri yamada 提供
インタビュー / 構成:涌上
取材日:2018年11月14日 恵文社一乗寺店 COTTAGEにて