第三十七回 松本久木さん (松本工房)

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個性豊かな作家さん、アーティスト、取引先の皆さんと毎日のように関わりながら成り立っている当店。そんな人々を探れば自ずと店の輪郭までもが浮かび上がるのではないかということで、スタートしました「いちじょうじ 人間山脈」。今回は、装幀の美しさに思わずため息が出るほどの繊細な本作りを手掛ける松本工房の代表、松本久木さんにお話を伺います。

~事務所にて飲みながら~

- なんかこの事務所すごいですね。照明の具合とか、キャンドルとかあるし…もやはバーじゃないですか。外は大阪の夜景が一望できて、造幣局の花見までできるという…。

事務所といいながら「気持ち良くお酒が飲めること」だけを考えて作ったしね。夏は天神祭の花火が見える。っていうか花火の恥部まで見える。

- 恵文社と松本工房、同じ関西で小規模の商売で…と昔からつながりがありそうですがお取引を始めたのはとても最近ですよね。私が恵文社で働く前から好きな出版社だったのですが、当然恵文社でも取引してると思ったら意外となくって。1年ほど前にこちらからお声掛けしたのが始まりでしょうか。

そうやね、営業とか全然出来てへんねん。こっちとしては、もともと冨永さん(※筆者)はうちのお客さんやったけど、ある日突然「恵文社」の看板を背負って連絡してきたからびっくりした。同じ関西で書籍に携わる場所、ということで恵文社は一度行かなあかんな~…と思いつつ、結局アンフェールで展示*1するまで一回も行かなかったっていう。仕事で近くまで行ったことあったんやけど、徹夜明けで酒臭くて、しかも顔ベトベトやったんで、迷惑かけたらあかんなと思って遠慮したことはあるけど。

- その節は展示だけでなく、コテージでトークイベント*2まで企画していただき、ありがとうございました。あのトークも不思議でしたね。演劇のチラシにまつわるお話でしたけれど、できればチラシ作りたくない、デザインしたくないっていう。逆にデザインに対する愛を猛烈に感じましたが、そもそも若いころからデザインに携わる仕事を目指しておられたのでしょうか。

いや、全く。高校卒業してひたすらぶらぶらしてたよ。テキ屋で働いたりゲイバーで働いたり、ネパールとかパキスタンとか行ったり、西成で見知らぬおじいちゃんに飼われてたこともある。まぁそんな話はまた今度で…。ホンマにデザインのことなんて考えたこともなかったよ。

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- 何か大きな物語が隠されているような…。松本さんのデザインって本当に繊細で文字も装幀も美しいし、内容も学術的で濃いから、すごい本だなって圧倒される人は多くいらっしゃいますよね。一方で、簡単にわからないというか、中々理解されづらそうな気もするのですが。

作ってる本人も理解出来てないよ。デザインってホンマにむずかしくて、考えれば考えるほどわからなくなる。なので最近は「デザイナー」と名乗るのはやめて、「サザエさん」と名乗ろっかなと思ってる。別に「パーヤン」でも「国産100%」でも「かわいいは作れる」でも「ンジャメギョ」とか何でもいいんやけど、自分のやってることがデザインであるという確信が持ててない以上あまり使いたくないし、自分が何者であるか不断に考え続けたいなと思うので。まあ、そもそもまだ、「デザイナー」と称せるだけのデザインする力が圧倒的に足りてないしね。あと、世間ではデザインということばを安易に使いすぎてる感がある。それによって「デザイン」が概念化してしまって、実体や実際がなんであるかちゃんと考えてる人がはたしているんだろうかと思えてくる。特に臆面もなくデザイナーと名乗ってる無邪気な連中を見てるとバカにしか見えない時があるねんけど。

デザインって、特にグラフィックやプロダクトのデザインには、知と理と美と戯が実装され、かつ整合と調和がとれている必要があると思うねん。理性と知性と美学と、そしてたわむれ、あそび。それぞれの言葉の定義は置いておくとして、それらが不可分物になる領域まで持っていかないといけないと思うし、デザインの「力」ってその領域から生み出されてくると思うねん。それと、デザインのおもしろさの一つは、「考えることの多さ」があると思ってる。実作業に入る前、入ってからもいかに多くのことを考えられるかってのが、実力として問われてくる。つまり、具体的な「解」にたどり着くために、どれだけたくさんのパラメータを作ることが出来るかということ。知と理と美と戯はそのためにあると言っていい。そして、やっかいなのが、やっかいだけどおもしろいのが、考えるのは頭だけではなく、「目」と「手」も考える力を持っているということ。それぞれに思考と志向と指向と嗜好がある。というか、なきゃだめ。目と手と頭は三権分立でありながら、互いに強い影響を与え続けないといけない。

こんなんやから、どうしても複雑化してしまうんやと思う。でも、これまたやっかいなのが、複雑系を通り抜けたシンプルに辿り着かないとあかんと思ってるし。まあ、理解されないって言われるのは、実力不足でどこかが破綻してたり欠如してたり、ようするに「合理」を獲得出来てないんやろうなあ。なのでさっき言ったように、今後は職名「あびせたおし」として活動していこうかなと思ってる。

- デザインの媒体として本を選んだというのは、何か特別な意味でもあるのでしょうか。

これも成り行き。とにかく全てが成り行きやねん、哀しいことに。親父の印刷請負会社を継ぐことになって、その延長線上に本があったという感じ。もちろん本は好きやった。けど、あくまで読むのが好きやっただけであって、装幀とか文字の種類とかって意識したことなかったな。本があの本の形態であるのってあまりに自明なことであって、それこそグーテンベルク*3の時代から変わってないやん。印刷や製本技術が変化しても、本があの本の形態であることの合理性はまったく不変不動。ヴァイオリンとかと同じ。既に完成をみてる。今さら自分が手を加える余地なんてないと思ってる。今でも世界中の全ての本の装幀がまったく同じでも何ら問題ないんちゃうかなと思ってるフシはあるもん。ただ、案件ごとに導き出した解に則って造本すると一風変わったものになる。不思議やなあと他人事のように思うことがある。

- 松本さんのデザイン観が形成されるにあたって、影響を受けた人物とか本ってありますか?

今の仕事をするだいぶ以前に大竹伸朗*4さんの『既にそこにあるもの』(新潮社)を、何度も何度も読んだ、読まされたと言っていいような経験があって。なんというか不思議なあじわいがあると言うか、なんとも言えない心地良さがあるというか、とにかく読書体験として非常に印象深く体が覚えてて。そんで、仕事をし出して間もない頃にEGO-WRAPPIN’の森くん*5が文章書くのん上手いって人づてに聞いて、「この本サイコーやから、こんな本作って」ってお願いするために、『既にそこにあるもの』をあげようと思ったんよね。それで古本屋を探し回ってようやく見つけて、あげる前にもう一度読み返してみたら、やっぱりいいなぁって。なんでこんなに気持ちいいのかなぁって。そんで、それまで本を読んでも、装幀担当とか気にしたことなかってんけど、改めて奥付見たら「葛西薫*6」って記載があった。ぐぬぬ、やはりおぬしか、と。あるいは、悪魔か貴様は、みたいな感じ。全てが合点、みたいな。そんで「装幀ってやう゛ぁいかも」と。
というのが、デザインを意識し出してすぐに葛西さんのデザインに、なんつうか接触事故というか、もらいゲロというか、まあ、つまり感銘を受けて、どうしたらこんなのびやかで風通しがよくて不定形やのに安心感のある豊かなデザインが出来るんやろう。なぞだ、なぞだ、神だ、って思ってたから、『既にそこにあるもの』の幸せな読書体験も多分に葛西さんの装幀の力が働いてたんやろうなあって、身を以て理解したってことがある。

- なるほど。中身はもちろんですが、装幀と合わせることでぐっと魅せられるというか、そういう本はありますよね。松本さんとしては、今後の活動はどんな感じで展開していく予定でしょうか?

0.1ミリずつ世界を豊かにしたい。中二病とわかってるけど、この症状は維持していきたい。0.1ミリとは、本の1ページの紙の厚さ。1ページ生むことによって、世界を0.1ミリずつやけど豊かにしたい。これは祈りというより自分への戒告に近い。豊かさに与しないページは作るべきではないと強く思ってる。いわんや本をや、といったところ。社会的な人間ではなかった時間が長かったからか、あるいは災害や戦争が続いてるからかはわからへんけど、無邪気に本作りなんて出来ないし、デザインもまたしかり。苦しみ多い仕事の方が性に合ってる気がする。そして、これまでも奇人変人妖精菩薩みたいな人たちと本を作ってきたけど、よりいっそう狂人偏人哲人菩薩みたいな人たちと協働する機会を増やしていきたいなと思ってる。

「デザイン」という言葉自体が消費されつつある現代で、ブックデザインを中心にデザインに対する真摯な考えをお聞きすることができました。シャイなのかプライベートな話はするりとかわされてしまいましたが、そんな松本さんとのお仕事はコミュニケーションにこそ、その面白みや真髄があるのかもしれません。松本工房の本はやっぱり実際に手に取って体験してもらうのが一番。当店店頭・オンラインショップでも数点お取り扱いがあるほか、お取り寄せもできますのでお気軽にお問い合わせください。また、松本工房オンラインショップより直接ご購入いただけますので、こちらもぜひご利用ください。

*1 2016年1月19日(火)~25日(月)に恵文社一乗寺店ギャラリーアンフェールで開催した『地点×松本久木展』のこと。当店が急遽展示をお願いし、松本さんが制作した地点のポスターデザインやフライヤー、冊子などを中心に松本久木のデザインワークを一挙に公開。展示の様子はこちら
*2 『地点×松本久木展』に合わせてコテージでもトークイベントを開催。地点代表の三浦基さん、地点制作の田嶋結菜さん、松本久木さんの三人の鼎談「地点のデザインの話でもしてみます?
*3 15世紀に活版印刷を発明したドイツ人、ヨハネス・グーテンベルク。活版印刷技術を考案し、その機器の実用化に成功して、自ら印刷業・印刷物出版業を創設したといわれる。
*4 日本の現代美術家。段ボールやチラシなどのガラクタをコラージュさせた作品など、混沌から生まれるアートが特徴。最近は香川県直島をはじめとする瀬戸内の島々でのアートプロジェクト(直島銭湯「I♥湯(アイラブゆ)」、女木島「めこん/女根」など)を手掛ける。
*5 日本のジャズバンド「EGO-WRAPPIN’(エゴラッピン)」。ジャズでありながらどことなくレトロな雰囲気の楽曲が印象的。森くんとはギター担当の森雅樹さんのこと。
*6 日本のアートディレクター。高校卒業後、複数の印刷会社を経て1973年に(株)サン・アド入社。現在は同社の常勤顧問。サントリーウーロン茶、ユイテットアローズのディレクションを手掛けるほか、装幀デザインにも定評あり。当店では毎年年末年始に販売する「葛西薫カレンダー」が大人気。

(冨永)

有限会社 松本工房
〒534-0026 大阪市都島区網島町12-11 雅叙園ハイツ1010号室
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