第十三回 澤辺由記子さん(temp press主催)

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個性豊かな作家さん、アーティスト、取引先の皆さんと毎日のように関わりながら成り立っている当店。そんな人々を探れば自ずと店の輪郭までもが浮かび上がるのではないかということで、スタートしました連載「いちじょうじ 人間山脈」。
今回は、活版印刷をベースとして幅広く活動されているtemp press主催の澤辺由記子さんと共に、東京榎町にある佐々木活字店にお邪魔して、temp pressについての活動を伺ってきました。

―まず、澤辺さんが活版印刷を始めたきっかけを教えてもらえますか?

最初は印刷博物館*1に勤めていたのがきっかけです。活版印刷工房の担当をしていたので、活版職人さんの下で直接活版印刷の手ほどきを受けていました。その関係で廃業する印刷所から譲り受けた手動の活版印刷機を使ってtemp pressの作品を作っています。

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活字を留めている紐は独特の二重結びで、解けないようにまとめてあります。

―当店でも販売している「良縁成就・むすび札」ですが、これはどういったイメージで生まれたものですか?

最初は失恋した友人を励ますために作ったもので、実は5年ほど前から存在していたんです。「ただ落ち込んでいるだけでは何も変わらないけれど、名刺を作って渡すだけで何かきっかけが生まれるかも」というところから生まれました。バラバラの活字は紐で結んで組版を作るので、人と人を繋ぐご縁結びとリンクしていることもポイントです。女の子の恋ですからやっぱりピンクがカワイイ。

―そう言われるとピンク色の名刺はあまり見かけないですよね。新鮮でした。

活版では活字の鉛色がインクに移ってしまうために、薄い色を印刷するのがとても難しいんです。昔の印刷物の赤や青は少し鈍い色ですよね?それは活版特有の金属のくすみなんです。むすび札もインクの具合によって色味が微妙に変わってしまうので、100枚を同じ色に刷るためにとても気を遣います。活版印刷所で同じものをオーダーしたらきっと嫌がられると思います(笑)

―そういえば中世の印刷物は渋い色合いが多い気がします。ちなみに、今年の作品はどれも恋にまつわるものが多い気がするのですが、これは?

印刷というのはそもそもコミュニケーションの手段なのですが、人が一番コミュニケーションしたいものって恋愛じゃないかと思うんです。でもなかなか最初のアプローチが難しいですよね?その一歩をお助けするアイテムがあったらいいなって。活版印刷の発明者グーテンベルグが免罪符(罪を免れるお札)を印刷したように、私はむすび札(恋の叶うお札)を刷ろうかなと思っているんです。

―うーん…面白いですね。ちなみに今回ご紹介いただいた佐々木活字店さんとの繋がりは?

こちらではむすび札の箱に使用しているうさぎの頭紙の「良縁成就・むすび札」という楷書の活字を購入しました。私の博物館時代から長年おつきあいがあり、いつも自転車で通って顔を出しては活版のことを色々教えてもらっています。

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ずらりと活字が並んだ馬棚。ここから文字を拾います。

―工場内を拝見しましたが、今は少しの機械が稼動するだけと伺いました。活版の良さが見直されてはいるものの、やはり現実は厳しいようですね。

今はデジタルで加工したものを、あえて金属の凸版で印刷する作家さんも増えていますが、むすび札は伝統的な活字の組版でお客様に提供したいと思っています。出来なくなった時はきっぱりやめます。近年活版は見直されてきましたが、むすび札の最後はきっと遠い将来ではありません。

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小池光三著 1968年発行・印刷学会出版部

―では最後に座右の一冊をご紹介下さい。

これは実際の印刷物に使われた印刷技術をひとつずつ再現してその解説している書籍です。「グラフィックデザイナーは印刷からデザインを学ぶのが最も無理がない効果的な方法で、とりわけ活版には印刷デザインのすべてがある。」ということを示していて、デザインを学ぶ前に活版をはじめた、デジタルの前にアナログのデザインからはじめた私にとって、私のやってきたことを肯定してくれる本です。実はこの著者は私が勤めていた頃の印刷博物館の恩師のさらに恩師です。デザインに対する意識が、世代を超えて受け継がれているのを実感しています。

活版を通じて精力的に新たな作品を生み出している澤辺さん。秋にはむすび札の新色「ミモザ」も登場します。ぜひお楽しみに。
※「ミモザ」は現在お取り扱いしておりません。

*1 東京文京区にある。様々な印刷技術の紹介や保存を行っている博物館。

(七里)