第十一回 椿野恵里子さん(写真家)

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個性豊かな作家さん、アーティスト、取引先の皆さんと毎日のように関わりながら成り立っている当店。そんな人々を探れば自ずと店の輪郭までもが浮かび上がるのではないかということで、スタートしました連載「いちじょうじ 人間山脈」。

第十一回は写真家・椿野恵里子さん。写真を月めくりのカレンダー「器と骨董」「花と果実」として発行するところから写真家としての活動がスタートしました。毎年のように部数を伸ばすほどの人気で、カレンダーを毎年これと決めておられる方も多いのではないでしょうか。生活館ミニギャラリーでは新茶の季節にお茶とお茶道具、茶摘みを記録した写真をを展示販売されています。展示会場のディスプレイもあっという間に椿野恵里子の空気に変えてしまう、そんな独自の世界観をいろんな方法で感じさせてくれる作家さんです。

―クウネルの『私たちのお弁当』をめくっていたら椿野さんのお弁当が掲載されていたので驚きました。この時はまだ写真家としてではないですね。

その頃は雑貨店に勤務していて、通勤時間が長かったので毎日ではなかったのですが、お弁当を作って持って行っていたんです。お弁当は作り始めると楽しいので、今は時々しか作らないのでとても懐かしいですね。今は写真の仕事をするために退職して、3年目になります。

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―写真は独学とお聞きしましたが、いつ頃から撮り始めたのですか?きっかけは?

写真を撮り始めたのは20歳からです。その頃はお花の仕事に就きたくて、専門の学校に行っていたのですが、そのレッスンで記録の為に撮り始めたのがきっかけです。初めは思うようになかなか撮れなくて試行錯誤しました。でもこのくらいの光がきれいだとか、こんな風な色で撮りたいとか、撮りたいと思うイメージは頭の中にあったので、どんな光の時に撮ればその色になるのかと、お天気や時間、窓からの距離などいろいろな光を試しました。その積み重ねが今も続いている感じです。よく撮り方をを聞かれるのですが数字では表せないのです。自然のひかりを見ることと、それを待っているだけなのです。

―なるほど。いつしか被写体と向き合いながら撮ることが主体に変わっていったということですね。仕事を辞めて、写真家として活動していこうと思ったのはなぜですか?

初めから写真を仕事にしたいと意識はしていなかったのですが、結果的にはそうなってしまいました。仕事を辞めようと思ったのは本の出版のお話*1をいただいてからですね。すぐには辞められない状況でしたので2年後に辞めようと決めて準備をしました。今までには他にもいろいろ興味のあることはあったのですが、その中でどんな時でも続けて来れたものが写真だったので、それも仕事にしようと決めた理由のひとつです。それから人にはそれぞれ、その人にしか見えない光や色があると思うんです。私にも私にしか見えない色があって、ただ単純にそれをもっと表現してみたいと思いました。

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―早川ユミさんの『種まきノート』(アノニマスタジオ)で写真のお仕事をされていますが、自然の風景や人物の写真はあまり見たことがなくて、毎年つくられているカレンダーのような静止している物の写真のイメージが強いのですが、普段からやはり部屋の中で物を撮ることのほうが多いのでしょうか。撮影する時に一番心がけている事は何ですか?

普段はほとんど部屋の中が多いですね。やはりカレンダーの写真のような植物やもののを撮る事がほとんどです。基本的にはこの撮り方を続けて行きたいと思っているのですが、ユミさんの本の撮影は本当に良い経験になりました。初めて本のお仕事をした時は*2、構成がもう少しはっきりと決まっていたのですが、2冊目の『種まきノート』は本の全体のテーマなどは聞いていましたが、撮る内容についてはほとんどお任せだったので、撮り方が全然違いましたね。何日か泊まり込みで一緒に生活をしながら撮ったのですが、どう撮ればユミさんの暮らしの風景をとらえる事が出来るか考えながら、自分なりの解釈して撮りました。撮影する時に一番大切にしているのは、撮る時の気持ちですね。気持ちが入っていないと写っていても写せていないと思うので。でもまだ自分の写真を撮る時とお仕事で頼まれて撮る時の気持ちの切り替えが難しいですね。

―『種まきノート』は風景の切り取り方や色の見せ方が椿野さんらしいなと思いました。外での写真もこれからもっと見てみたいと思わせますね。手摘み茶葉や茶器の販売など、写真以外のお仕事も多いですが共通して伝えたいことは何でしょう。

自分に中で大きなテーマは「人と植物とのつながり」です。人は植物なしには生きてはいけません。特別な事は出来ないので、自分の普段の暮らしの中でどんなふうに植物と共存すべきなのかを自分に問い続けているんです。思い返せば、子供の頃から家族でお茶摘みをしてきたことも、こういう考え方のもとになっていると思っています。お茶も飲み物であると同時に、植物(命あるもの)ととらえています。使っていて写真に撮っている道具も木や竹や、土など自然のものから作られたものが多いですよね。まだ全部を手で作っていた頃の”もの”の持つ力は、植物の生命力に近い強さを感じますし、生きているようにさえ思う事もあります。そんな生きた道具を使って下さる人へ届けたいと思っています。いろいろなことをすると、見ている方にはひとつのテーマがあるようには伝わっていないかもしれませんが、これからも自分に問いかけながら、感じたものを写真して行きたいと思っているし、これが人が生きて行く上で大切な事のひとつだと信じています。

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―では最後に座右の一冊をご紹介下さい。

人間国宝・三代田畑喜八 『草花下絵図鑑』東方出版  写真を撮り始めた頃、美術館のライブラリーで初めてこの本を見たときページをめくるたびにハッとさせられました。日本画でも下絵を見るのがとても好きです。そこには作者の本当の視点が描かれているように思うからです。写真はシャッターを押せば簡単に目の前のものを撮る事が出来てしまうからこそ、絵を描く時のような強い思いや気持ちを込めることの大切さ、被写体を観察してちゃんと見るという基本を教えてくれる一冊です。木を見ずして森は見えずなのです。

*1 『風景のあとに カレンダーのくれたもの』(アノニマスタジオ)
*2 『小さなしあわせみつけた』(主婦と生活社 / 石村由起子)

(椹木)