第四回 上杉浩子さん(フリー編集者)

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個性豊かな作家さん、アーティスト、取引先の皆さんと毎日のように関わりながら成り立っている当店。そんな人々を探れば自ずと店の輪郭までもが浮かび上がるのではないかということで、スタートしました連載「一乗寺人間山脈」。
第四回目は、フリー編集者の上杉浩子さん。数年ぶりに編集をしたという『がちまい家のオーガニックな焼き菓子』(謝花 三千代・著/エンターブレイン)がロングセラーに。今後のいくつかの出版企画を抱えながら、整体師や織作家としても活動している、という不思議な肩書の持ち主です。今後の活動も含め、気になるお仕事ぶりを取材してきました。

―「がちまい家さん」*1のレシピブックの出版をご案内いただいた事でご縁が出来たのですが、あの本は凄く売れましたよね。数年振りの編集のお仕事だそうですが、きっかけは何だったのですか?

20代にリクルートで編集の仕事をしていたんですが、退職後しばらくフリーでやってたら体壊しまして。そんなわけで知りあったカリスマ整体師(笑)の本『おんなみち』(奥谷まゆみ・著/エンターブレイン)を手伝う事になって、久しぶりに編集に復帰したんです。でも、もう「編集」っていう仕事はやりたくなかったんですよ。夫*2の仕事を手伝っていたりする事もあって、体力的に難しいし。ただ、4年前に近所にあったがちまい家さんが店を閉めて沖縄に帰ってしまうという時に「本に出来れば良いね」という事は言っていたんです。その時は彼女に本を出す意志がまだ無く、時期尚早という感じで流れてしまったのですが、その後も沖縄からお菓子を送ってもらったり、お付き合いはずっと続いていたんです。ある時、エンターブレインさんと話す中で、やっぱり作りたいよね、っていう話になって。4年ぶりに再アタックして、ようやく事が動き出したというわけです。

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―それが今やロングセラーですよね。

今のところ5刷で大ヒットです。買ってくださった全国の皆様のおかげです。サウスアベニュー*3とかのらぼう*4にも協力してもらいましたし、恵文社さんでのフェアも、本当にお世話になりました。ほんというと、こんなに売れると思ってなかった。小さな街の小さな店でしたし、マスコミ取材一切拒否ってましたから。

―今後の編集企画はあるのですか?

いくつかあります。またもや、お料理系ですね。まだナイショですが(笑)。

―でももう編集したくないんですよね。

したくなかったんですけどね。あはは。でも、今企画が進んでいる女の子のお菓子に出会ってしまった。すっごくウマいんですよ!まあ、私がそのレシピを知りたかった..のでしょうねえ。うまくいく企画って、だいたい、そういう動機が一番大事だったりするような気がします。

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―そして、なぜか整体師のお仕事をされつつ、織物もされている。忙しいですね。どういう経緯で?

本を作るついでに奥谷まゆみ先生*5のところで勉強させていただいて、今は彼女の整体所で働いています。整体のお仕事はお体に触らせてもらえるだけで、もう「ありがたい」っていう感じ。現場で学んだ事は、かけがえのない財産ですね。あと、私は昔からお裁縫が大好きだったんですよ。とにかく布が好きで、小学校ではぬいぐるみクラブの部長さんでした(爆)。ただ、自分が作り手に回ろうと思ったことは一度も無かったです。それが友達に誘われて、ホームスパンの教室に3日間参加したんです。羊の原毛を洗うところからやって染め、紡ぎ、織までひと通り。えらい下手くそで最後は半べそかきながらでしたが、何かひかっかるところがあった。もうちょっとやってみたいなって。それで『別冊太陽 大人の教室』を見て、その中で一番かっこいい!と思ったのが清野工房*6だったんです。しかも家から10分とかからないところでした。

―ウエスギさんのホームスパン、凄く良いと思います。服が地味だから、ストールなんかは映える色を使うと良いんですよね。色の使い方とか、二重織りの立体感も良い。コムデギャルソンも二重織りのセーターを出してますね。シェトランドという種類の羊の、ざっくりした感じも良い。巻くとコート要らずだし、たたむと膝かけにもなる。

糸の太さとか、種類によって丁度良い幅のものってあるんですよね。一番気に入っているのは 200cmX80cmくらいのもの。ちょっとづつ、作品を見ていただけるように頑張ってます。脂とか糞とかがついてる羊の原毛を洗って、染めて、紡いで糸にして、それを織るんです。織道具は清野工房が製作しているものがあるので、それを使っています。織手が作った道具なので、抜群の使いやすさと機能美を兼ね備えたスグレモノなんですよ。

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―楽しみにしています。さて、座右の書ですがコレ*7は?

たぶん、惚れちゃったんだなあ、と思います。だってアホで、かわいくて、カッコいいんだもん。気が付くと、最近笑ってないなあ、こころのなかに笑う余裕も無かったのかなあ。っていう時に、いつも読みたくなる本です。読んでるうちに「私アホちゃう?あはは」という気分にさせてくれるから。殿山さんってものすごくモテたらしいんです。それがすごくよく分かる。実際に本人に会ってしまったら大変だったかも(笑)。だから、本を読んで好きになってるくらいがちょうどいいんだよね。これからも、ずっと一緒にいたい。そんな本です。

同時進行で精力的に仕事をされている上杉さん。消費者の立場で、好奇心や欲求を仕事に繋げていくようなところもあり、どんどんそれを形にして行くムードに刺激されました。今後のお菓子本にも期待です。私はというと、ホームスパンのストールがすっかり気に入って、個人的にオーダーをお願いしました。藍で染めた手紬の糸を使って夜空のようなイメージで、ということで年内までの納品待ち。今年の冬はそれが楽しみ。

 

*1 『がちまい家のオーガニックな焼き菓子』(謝花三千代 / エンターブレイン)発売当初より大ヒットとなり、今でも版を重ねている。当店では出版記念のお菓子販売フェアを開催。
*2 イラストレーター・上杉忠弘。上杉さんの作品は広告などで一度は目にしたことがあるはず。海外でも評価が高いお仕事をされています。谷口ジロー氏のアシスタントを経て独立。何と最近新装版が刊行された、人気コミック『孤独のグルメ』(泉昌之、谷口ジロー/扶桑社)の背景も描いていたとか。「おいしそうに見える料理の絵は、だいたい私ですね」
*3 「サウスアベニュー」のこと。西荻窪にある中国茶専門店。味と品質に信頼が厚く、試飲もできる。店内は掘り出し物のリサイクル用品、服も並んでいたり、日本の古い物や可愛い茶器、アクセサリーなどもある。非常にミステリアスなバランスで仕入れをしているでツボなお店。オリジナルのタオルも可愛い。
*4 イラストレーター・上杉忠弘。上杉さんの作品は広告などで一度は目にしたことがあるはず。海外でも評価が高いお仕事をされています。谷口ジロー氏のアシスタントを経て独立。何と最近新装版が刊行された、人気コミック『孤独のグルメ』(泉昌之、谷口ジロー/扶桑社)の背景も描いていたとか。「おいしそうに見える料理の絵は、だいたい私ですね」
*5 整体師。「からだクリエイトきらくかん」主催。今年、一乗寺の隣町である元田中に京都店をオープン。上杉さんが編集された『おんなみち』(エンターブレイン)や『おきらく整体生活』(ちくま文庫)、『骨盤リセット!』(王様文庫)など、著書多数。
*6 ホームスパン作家・清野新之助。ホームスパン界のベテランにして重鎮。清野工房は娘さんである詳子(みつこ)さんと運営されている。清野工房がオリジナルで製作している織道具を買う事もできる。スピナッツに特集あり。
*7 『三文役者』上・下(殿山泰司・著/ちくま文庫)

(椹木)